婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「なんて言ってたわりには、うまいじゃないか」

 優雅なステップでオディーリアをリードしながら、レナートはくすりと笑った。今日の彼は、王子としての正装である騎士の装束に身を包んでいる。紫紺色のジャケットにも、腰に携えた長剣にも、獅子をかたどったナルエフ王家の紋章が刻まれている。
 軍人らしいラフな服装もよく似合うが、こういう品格あるスタイルは彼をもっとも輝かせる。その証拠に、この場の視線を誰よりも集めているのは間違いなく彼だった。主役である父王や数多いる兄王子たちよりも。
 オディーリアは彼を引き立たせる淡いラベンダーカラーのドレスを選んだ。と言っても、見立ててくれたのはオディーリア自身ではなくクロエだ。サラサラの白銀の髪はゆるく編み込み、高い位置でお団子にしてもらった。

「レナートのリードが上手なんだと思います。私、ダンスはあまり得意ではなかったので」

 ロンバルでも一応ダンスの特訓は受けた。皇太子の婚約者として必要な嗜みだから。だが、生憎オディーリアにはダンスの才能はなかった。イリムと踊っても下手くそ同士で、とても見れたものではなかった。だが、相手が違うとこうも違うのか。今日のオディーリアは音楽にのれていた。ターンをすれば、スカートのすそがまるで計算しつくされたかのように、ふわりと美しくひるがえる。
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