婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「あれがレナートのお兄様たち?」
「あぁ、紹介するよ」

 レナートはにこやかだが、ハッシュは眉をしかめて厳しい顔つきになった。それを不思議に思っていたオディーリアにジルが教えてくれる。

「僕と違って、あの人たちのなかにはレナート兄様をよく思わない者もいる。十分に気をつけて」

 ジルの忠告の意味はすぐにわかった。第二王子だと紹介されたクリストフ。彼がレナートを目の敵にしているようだ。

「なるほど。これだけの美貌の女神が戦場に舞い降りたとなれば、兵の士気があがるのも納得だな。病と戦う私にも、どうか君の加護を分けておくれ」

 第一王子のバハルは線の細い優しそうな青年だった。どこの馬の骨とも知れないオディーリアにも気さくに声をかけてくれる。

(身体が弱いという第一王子様。たしかに、顔色があまり良くない。血の巡りが悪いのかしら)

 オディーリアはバハルの手を取ると、祈りの言葉を捧げた。

「あなたに女神の加護が届きますように。それから、冷たいものは控えて温かい食べ物を多く取るようにしてください」
「ありがとう」

 弱々しいバハルの笑顔にオディーリアの胸はちくりと痛んだ。
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