婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
(祈りの言葉なんてただの気休めだと、この人もわかってる。白い声が……白い声さえ戻れば……病を治してあげられるのに)

「女神を騙る怪しげな女が今度は医師の真似事か? バハル兄上、離れたほうがいいですよ。女神どころか、その女は死神かもしれないですからね」

 クリストフの蔑むような冷たい視線がオディーリアのに注がれる。でも、オディーリアは彼に言い返すことなどできない。

(女神を騙る怪しげな女。その通りだものね)

 レナートがオディーリアをかばうように彼女の前に歩み出た。そして、クリストフを見据えて静かに口を開いた。

「クリストフ兄上。私の妻を侮辱しないでいただきたいな」
「侮辱ではない。ありのままを指摘しただけだ」

 クリストフとレナートの間に不穏な空気が流れる。ピリピリとした緊張感は見ている者にも伝わってくる。

「まぁいい。今夜は偉大なる陛下の誕生日パーティーだ。揉め事はよそう」

 クリストフはおもむろにオディーリアに顔を近づける。そして、にたりと意地の悪い笑みを浮かべた。

「精々化けの皮がはがれぬよう注意するんだな。奥方様」
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