婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 くるりと踵を返して去っていく彼の背中を、レナートとオディーリアは見送った。

「あの人は誰にでもああなんだ。気にするな」

 レナートの気遣いの言葉に、オディーリアはこくりと頷く。

「気にしていません。女神の話は私ではなくレナートの罪です」
「ははっ。たしかにそうだな」

 存外に気丈なオディーリアをレナートは頼もしく思った。オディーリアは別の人間と談笑しはじめたクリストフを見つめている。

「レナートにはあまり似ていないのですね」

 クリストフは爬虫類を思わせる神経質そうな顔立ちをしている。長い黒髪を後ろでひとつに束ねていて、戦場よりは本と書類の似合う文官タイプだ。無表情で感情が読みづらい。

「そうだなぁ。兄弟とはいっても、みな母が違うしな」
「でも、ジルとレナートはよく似ています」

 ジルの持つ明るいオーラはレナートにそっくりだ。ふたりとも太陽に愛されている。

「そうか? なら、あいつはあと数年もしたらいい男になるな。お前を奪われないよう気をつけておこう」

 レナートはほんの軽口のつもりで言ったのだが、オディーリアはこの発言を大真面目に受け取った。
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