婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「薬師?」
「うん。医師でもいいんだけど、薬に詳しい人の話を聞きたいの」

 まずは専門家には相談しようとオディーリアは思い立った。だが、ナルエフの医師に知り合いはいない。結局、困ったときのクロエとマイト頼りでオディーリアはふたりに相談してみた。

「僕は軍人だから、軍医なら何人か知ってるよ」
「私もこう見えて、名門の家柄だから主治医くらいはいるわよ」
「本当?ぜひ、紹介して」

 オディーリアが言うとマイトが首をひねった。

「でもさ、僕らよりレナート様のほうがいい医師を知ってると思うよ。なんてったって王子様だし」
「たしかに。王宮医師より知識のある医師はいないと思うけど」
「レナートには内緒にしてほしいの!」

 オディーリアは懇願した。彼に正直に話してもきっと取り合ってくれないだろう。白い声などなくても構わないと言われてしまうのが容易に想像できる。

「レナートにね、歌を聞かせてあげたいの。だから声を取り戻したいの」

 真実を少し混ぜた嘘の理由をふたりには伝えた。クロエとマイトはオディーリアが毒により声を潰されてしまったことは知っているが、白い声の治癒能力のことは知らない。知っているのはレナートだけだ。ロンバルと違い、この国では魔力は未知のものだ。奇異の目で見られるかも知れないから人には話すなとレナートに言われていた。
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