婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 オディーリアはイリムに飲まされた毒のことを、できるだけ詳細にデューモに伝えた。

「声を奪う毒、ですか」
「はい。青っぽい液体で、舌が痺れるような強烈な刺激がありました」
「でも、お嬢さんの声は完全には消えていない。不完全な毒だったのかな?」
「いえ。これは、途中で吐き出したおかげだと思います。そのままだったなら、きっと声を失っていたはず」

 本当は吐き出したのではなく、治癒能力を自分に使ってダメージを軽減したのだが、そこは省略しておく。

「う~ん。私は長年この世界に身を置いているが、ナルエフでは聞いたことがないな」
「そう、ですか」

 オディーリアはがくりと肩を落とした。デューモは申し訳なさそうにつけ足した。

「そういった類の毒は医学ではなく魔力の分野だろう。あいにく、ナルエフでは魔力の研究は進んでいないんだ。魔力活用のさかんな国で聞いたほうが手がかりがつかめるかもしれないな」
「魔力……」

(そうか。たしかに、あの毒には魔力がかけられていたのかもしれない)

 白い声は治癒の魔力だが、ロンバルにはまったく逆の魔力を使うものもいた。イリムはそういう者を使って、あの毒を作らせたのだろう。

「もし魔力なら……」

 デューモの言葉の続きをオディーリアが引き取った。

「かけた人間なら無力化できる」
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