婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 その言葉を聞いたレナートの眉がぴくりと動いた。

「クリストフたちの裏切りの証人としてしばらく生かしておくつもりだったが……今のを聞いて気が変わった。オディーリアを奪う気なら、今すぐに死んでもらう」

 レナートは剣を握る手に力をこめた。イリムの皮膚にゆっくりと剣先が沈みこんでいく。鮮血がにじみ、イリムの顔が苦痛に歪んだ。

「やめて!」

 オディーリアは叫び、ふたりのもとへ駆けよった。剣から手を放し立ち上がったレナートは怪訝そうな顔でオディーリアを振り返る。オディーリアは夢中で訴えた。

「待って、レナート。お願いだから……」
「あぁ、オディーリア。俺の愛に気がついてくれたか。どうか哀れな俺を助けてくれ」

オディーリアはレナートだけを見つめながら、言った。

「愛するあなたのために白い声を取り戻したいの」

「そうか。俺の傷を治してくれるか。解毒剤はブレスレットの中に隠してある。エメラルドの部分が蓋になってるんだ」

 自分の命のためならばと、イリムはペラペラ喋りだした。オディーリアは彼の手首に飾られたゴテゴテと悪趣味なブレスレットを外し、言われた通りにエメラルドの部分をこじ開けた。中には小さなカプセルが入っていた。
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