婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 ぽかんと口を開けているオディーリアに、レネートはふふんと鼻を高くした。

「はい……ぜんっぜん、そんなふうには見えなかったので」

 レナートの自慢げな顔がはたと真顔に変わる。

「お前は……大人しそうな顔してるくせに、ほんとかわいくないな」
「面白いよね、オデちゃん。僕は好きだよ!」

 マイトはにこにこしながら、オディーリアに腕を絡めた。

「マイト。形だけとはいえ、殿下の妃だ。無礼な真似は控えろ」
「え~ハッシュのその物言いのが、よっぽど無礼ってもんじゃない?」

 ハッシュとマイトはなにやら楽しそうだ。レナートはオディーリアを見ると、くすりと自嘲的な笑みを浮かべた。

「ま、たしかにな。第七王子なんて、上が全滅したときのスペアみたいなもんだ。王子様なんて呼ばれるほど大層なもんじゃない」

 オディーリアはレナートをじっと見つめ、口を開いた。

「褒め言葉……のつもりでした。あなたのその手は、きちんと毎日鍛錬をしている者の手です。生粋の軍人なのだろうと思っていました」

 レナートの手には、剣を握る者特有のマメがいくつもある。イリムの、つるつるで女のように美しい手とは全然違う。
 彼は目立ちたがり屋だから戦には出たがったが、将軍とは名ばかりで、いつも後方に陣を取り護衛兵にぐるりと周りを囲ませていた。剣の修行どころか手入れすら、人任せでろくにしてはいないだろう。
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