婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 オディーリアの心の声には気づかず、クロエはがんがん距離をつめてくる。オディーリアの髪やら肌やらをぺたぺたと触りまくりながら、彼女は言った。

「噂通り、ほんっとにかわいいわ! なんで、形だけの妻なの? もしかして、レナート様ってマジでマイトと……」

 レナートもクロエにはかなわないらしい。黙って苦笑しているだけだ。

「やだ、もしかしてうちのお兄ちゃんじゃないよね? いやいや、それはないか。腹黒だもんね、あの人」

「見た目は似てるけど、中身はちっとも似てないですね」

 オディーリアはこそりとレナートにささやいた。

「賑やかな娘だから退屈はしないだろ。お前の仕事は……考えておくが、まずはここでの暮らしにゆっくり馴染んでくれればいい」

 馴染む。レナートはそう言ったが、オディーリアにはよくわからなかった。

(馴染んで、それでどうなるのだろう。ここでずっと暮らすの? そんなこと、想像もできない)

 もちろん妻になんてなれない。〈白い声〉も使えないから、レナートの軍を助けることもできない。

(私、からっぽだ。役立たずで、なんにもない)

 レナートは優しい。優しすぎて、余計に自分が惨めになる。
 


 

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