婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 ぱしゃりと顔に冷水を浴びせられて、オディーリアは目を覚ました。
 鉛でも詰められたかのように頭は重く、視界には白いもやがかかっていた。さきほどの焼けつくような痛みは消えていたが、喉にははっきりとした違和感が残っていた。

(声……が……)

「あっ……うぅ……」

 かろうじて、声は出た。飲まされた液体は完全にオディーリアの声を封じるためのものだったのだろうが、自分のために使った治癒の力が多少は効いたようだ。だが……その声は老婆のようにしゃがれていて、元のオディーリアの清らかな声とはまるで別物だった。

 オディーリアは自分が〈白い声〉を失ったことを悟った。

「目が覚めたか?」

 オディーリアの前にかがみこみ、その顔をのぞきこんだのは、彼女のまったく知らない男だった。
 松明の明かりのみの薄暗いなかでも、太陽のように明るく輝く金の髪と瞳。顔立ちは女性的といえるほどに端正だが、よく日に焼けた浅黒い肌には無数の刀傷があり彼が軍人であることを物語っていた。
 否が応でもひと目をひく、なんとも華のある男だ。まるで獅子のようだとオディーリアは思った。
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