婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
戦いの女神(アテナ)からキスを賜ったから、俺は大丈夫だな」
「アテナ?」
「あぁ、行ってくる」

 レナートはあっという間に馬上の人となり、戦場へと向かって行った。

(そういえば、300デル分の仕事ってなんだったんだろう。戦場についたら教えるって言われてたのに、聞き忘れちゃったな)

 オディーリアやクロエは前線から少しさがった場所に構えたレナート軍の本陣で、負傷者の手当や看病にあたった。
 オディーリアは慣れているから問題ないが、クロエのことは心配だった。詳しく聞いたことはないが、きっと彼女は良家の娘なのだろう。
 
「クロエ、大丈夫? 無理しないで。もっと後方の仕事でもいいと思うから」

 食糧や備品の管理なら、戦場に慣れていない者でもやりやすい仕事と言えるだろう。看護は、その言葉から受けるイメージより数倍は過酷だ。足を負傷した者に肩を貸したり、大量の汚れた衣類を洗濯したりと、力仕事も多い。なにより、血と臓腑の……戦場特有の匂いがきつい。
 向かない者には心底つらい仕事だろう。

 クロエは眉をしかめ、唇を噛み締めていた。

(やっぱり……)

 オディーリアがそっと彼女の肩を抱こうとすると、クロエはぽつりとこぼした。
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