婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 レナートはオディーリアの髪を撫で、そのまま指先で彼女の唇をなぞる。

「男なんて単純な生き物だ。美人に微笑まれたら、それだけで英雄になれる。そして、戦場ではそういう思い込みの力は結構侮れない」

 彼の言いたいことも、わからないではなかった。死ぬかもしれないと怯えている兵より、手柄をたてようと意気込んでいる兵のほうがきっと強い。強い兵が多い軍はそれだけ強くなる。

「ですが……私はもう聖女じゃないんです。女神だなんておこがましいことです」

 レナートはむっとした顔で、オディーリアの額をぺちっと叩いた。

「いたっ」
「お前は〈白い声〉とやらに、とらわれすぎているな。それがないと価値がないと言うなら、俺やクロエも無価値か?」
「いえ、そんなことは……。ただ、私にはそれしか……」

 オディーリアの言葉を、レナートは強い口調で遮った。

「他にもあるだろう。騎馬技術も優れているし、看護もしっかりできる。その美貌も立派な武器だ、存分に使え」
「その使い道が女神……なのですか?」
「そうだ。お前に看病されたら、元気が出たとみなが言ってるぞ。立派な治癒能力だ。自信を持って、女神を演じきれ」
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