婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「……なるほどね、たしかに滅多にお目にかかれない美人だ。いいのか、お前の女だっんだろう」

 後半の台詞は、ちらりと横目でイリムを見ながら言った。イリムは待ってましたとばかりに、こくこくと何度もうなずく。

「あぁ。助けてくれるなら、こんな女はいくらでもくれてやる! だから早く俺を助けてくれっ」

 なるほど、自分はイリムに売られたのか。オディーリアはまるで他人事のような冷静さで、自身の置かれた状況を理解した。

(そういうことだったのね)

 そう思うだけで、大したショックは受けていなかった。イリムの部下達の言葉から薄々感づいていたせいもあるが、そもそもオディーリアとイリムの間には、壊れてショックを受けるほどの信頼関係はなかったからだ。
 オディーリアはその類まれな美貌と〈白い声〉を持つ聖女のなかでも特に優秀な治癒能力を持つことから、王太子の婚約者に選ばれた。彼女にそれを断る権利など当然与えられてはおらず、この戦が終われば半強制的に彼の妻となるはずだった。
 つまり、オディーリアはイリムに特別な感情などは持っていないし、彼のほうもそれは同じであることも知っていた。
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