婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 だから、イリムに失望などしていないし、彼を責めるつもりもなかった。だが、彼のほうは落ち着き払った様子のオディーリアに責められていると感じたらしい。

「なんだよ、その目は。王太子の命を救えるんだ。聖女としてこれ以上の誉れはないだろう。お前の代わりの聖女はいても、俺の代わりはいないんだぞ」

 その通りだ。彼にしてはまともなことを考えたものだと、オディーリアは思った。だからなにも言い返さなかった。だが、それもまたイリムの機嫌をそこねたらしい。

「大体なぁ、俺はお前みたいな愛想のない女は大嫌いだったんだよ」

 これにはなにか答えるべきだろうか。オディーリアは悩んだが、ありがたいことにレナートが会話を打ち切ってくれた。

「では、交渉成立だな」

 レナートは自身の兵に向かって、顎で外を指し示した。

「そこらに待たせてる仲間に引き渡してやれ。伝統ある大国ロンバルの王太子様だ、丁重に扱えよ」
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