婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 皇帝の住まう王宮は、この城からさほど離れてはいない場所にあるらしいが、オディーリアは一度も訪れたことはなかった。もちろん、そんな立場にないことも自覚しているので、行きたいと思ったこともなかったが。

「あっ……今日はあのふたりは、いないほうが都合がいいというか……」

 オディーリアがうっかり漏らした本音に、目を輝かせたのはクロエだ。

「え、なになに? オデちゃんのお悩みはあのふたりには聞かれたくないってこと?」
「いや……その、えっと……」

 慌てながらも否定はしないオディーリアの態度に、クロエはにんまりと笑う。

「推測その一、うちの兄が小姑みたいでうんざりだから追い出したい」
「そ、それはない。違う、違う」

 ハッシュが小姑のようにちくちく嫌味を言ってくるのは事実だが、最近ではわりと慣れてきた。最初は嫌われているせいだろうと思っていたのだが、レナートいわく彼が小うるさいのは元々の性質らしい。

「うーん、じゃあ推測その二。 レナート様が怪我してて夜が不満。浮気相手を募集中! ってのはどう?」

 完全に面白がっているクロエをマイトがたしなめた。クロエといるとマイトがとても常識人に見えてくるから不思議なものだ。
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