二重人格者の初恋
午前中のルーティン作業の最初は検査から始まる。
私たちが不自由なく生活できているのは、先生の検査対象として協力しているからに他ならない。
でなければ、毎日人格が変わる人を雇用してくれる会社など無い現代社会では、私たちは遥か昔にくたばっていただろう。

検査も慣れてしまえば、どうってことはない。
痛みを伴うものもなく、検査時間中は主治医の田畑先生と雑談をしたり、ヒロシの最近の状況を聞いたりととても有意義な時間だ。
こんなストレスない時間を過ごしてお金を貰って良いのかと少し心配になるくらいだ。


午後は田畑先生の助手として、研究の手伝いをして時間を過ごす。
ヒロシと違い、私はどうやら左脳が発達しているらしく論理的思考や物事を整理する力などに長けているらしい。
そこらへんの大学生よりも何倍も使い物になると重宝してもらえているのはお世辞であったとしても嬉しいものだ。

先生の研究が進む事は、すなわち私の不自由な生活を解消することにも繋がることもあり、私はどの学生や助手よりも熱心に先生の研究をサポートしていた。

17時になると私の就業時間も終了し、帰宅する時間となる。
他の助手たちは研究室に泊りがけで作業をしている様子を聞いたりすると、非常に羨ましく感じた。

『私も本当は残業などしてみたい。他の人が仕事疲れたーといって帰りに飲みに行く輪に入りたい。』
私は毎回、こういった自分の欲望に蓋をして職場を後にする。


そして、私はいつものスーパーで今日と明日の食材を買い込んで帰宅する。
帰宅後は、自分用の食事を作り、明日のヒロシの為に朝食と夕食を作り置きする。
食事を済ませた後は、お風呂に浸かり、1日の行動をまとめ、今日1日の感想を日記に書き、明日のヒロシに伝えたいことをポストイットに書き鏡に貼る。

ヒロシは毎回、『おはよう』と挨拶を書いてくれるが、私は一度も書いたことがない。
このことをヒロシはどう思っているのだろうと気になることもあるが、絶対に会うことのない相手だからと気にしないようにしている。

次起きた時は金曜日か。
そんなことを思いながら、私は眠りについた。
< 3 / 62 >

この作品をシェア

pagetop