ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下男子にトロトロに溺愛されてます。
「真紀、ん」

 急に名前で呼ばれてドキンと身体が熱くなる。流石に私の降りた駅には会社の人はいないと思ったのだろう、松田はまるで子供が母親に手を繋いで欲しいと言っているような眼差しで手を差し出してきた。

「仕方ないわね」

(あ〜また、可愛くない返事しちゃった……)

 ソッと松田の手を握り、二人で並んで歩く。
 冷えたお互いの手が段々暖まってきたところでアパートが見えた。
 アパートまで五分の道のりが今では短くて物足りない。やっと繋げた手を離すのが惜しい。

「もう着いちゃいましたね、じゃあまた明日」

「えぇ、じゃあまた、明日」

 繋いでいた手をグッと引き寄せられバランスを崩し松田の胸に引き寄せられた。
 
「ちょっと……」

「誰も居ないから大丈夫」

「えっ……んっ……」

 松田の大きい手が私の頭を掻き抱き、ゆっくりと私の口の中に松田の舌が入ってくる。熱くて溶けそうなキス。

「ふっ……んん」

 リップ音が静かな夜道にやたら響いているように聞こえ耳にもキスをされているような感覚に陥る。

「あー、こんな真紀の可愛い顔誰にも見せたくないからもうお終い」

「……何言ってんのよ」

「可愛いって言ってるんですよ、はぁ……帰りたくないなぁ」

 私もだ。まだ一緒に居たい……

「明日も仕事だからね、送ってくれてありがとう」

「ですね、じゃあまた明日、おやすみなさい」

 どうして素直になれないんだろう……
 松田の歩く後ろ姿を見ながら「はぁ」と深い溜息が溢れた。
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