ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下男子にトロトロに溺愛されてます。
 今日はやけに冷える日で電車を降りてからの道のりが少し足早になる。
 アパートの階段を登ると自分の部屋の前に人影が見えた。

――真紀だ。

 走って駆け寄り抱き寄せるとまるで氷のようにキンキンに身体が冷えていた。

「どうしたんですか! こんな寒い日に……何かあった?」

 彼女は何も言わずにただただ俺に抱きついていた。

「とにかく中に入りましょう、風邪ひいちゃいます、すぐにお風呂入れるから入って下さい」

 彼女の肩を抱き部屋にあげると明らかに様子がおかしい。いつもは元気にツンツンしている彼女が辛そうな顔で今にも泣きそうだ。
 お風呂が出来ました、と音がなり彼女をお風呂まで連れて行き、ゆっくり浸かっておいでと洗面所を出ようとした所で腕を引き寄せられた。

「真紀?」

「……一緒に入る」

「え……」

 耳まで真っ赤に染め上げた彼女の顔を覗き込むとジワリと目に涙を浮かべている。これは只事じゃない。

「じゃあ真紀が先に入って、俺は後から入っていくから」

「うん……ちょっとあっち向いてて」

 脱いでるところを見られるのが恥ずかしいのだろう、俺は目を隠しながら反対方向をみて真紀を見ないようにした。
 視界が暗いからか、耳が研ぎ澄まされてしまい、服を脱ぐ音がいやらしく聞こえてしまう。
 ドキンと心臓が波打ち、自身の下半身も反応してしまいそうになる。

(あー、真紀が悩んでる時に! 煩悩退散、煩悩退散)
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