強面お巡りさんはギャルを愛しすぎている
ここまで来るのに物凄く長い道のりだった。今、同じ屋根の下で暮らして夫婦であることが信じられなくて涙が出そうになる。
「すぐに夕飯の準備しますね。今日は修一郎さんの好きなビーフシチューなんです! 圧力鍋で煮込んだのでお肉トロトロになってますよ!」
涙目を悟られないように、さぁさぁと背中を押しダイニングチェアに座らせた。キッチンへ引き返しながら、喉の奥から込み上げてくる感情を押し殺した。
「これってどうしたんだ」
ビーフシチューを温めながら、カウンター越しに指差されたものを見た。
「あぁ、それは今日会社でいただいたんです。結婚の報告をしたらお祝いしていただいて」
花瓶に生けた花はダイニングテーブルを華やかに演出していた。
「菜摘に似合う黄色とオレンジの良い色合いだな」
花を見て少し口角を緩めている修一郎さんを目の当たりにし、花に嫉妬した。修一郎さんに愛でられるなら花になりたいなんて馬鹿なことを思うのはきっと私くらいだろう。
(でも……彼からの愛がもらえるのであれば私は何にだってなれる)
テーブルにビーフシチューにアボカドサラダ、オニオンスープを並べ、買っておいた修一郎さんの好きな赤ワインをブルゴーニュ型のワイングラスに注いだ。
「どうぞ」
「いただきます」
グラスを傾け乾杯し、ビーフシチューを一口食べる彼を見つめた。私はビーフシチューはバゲット派だが、修一郎さんはカレーの様に白米で食べるのが好きだ。だから彼の好みに合わせてカレー同様にご飯とルーを盛りつけるスタイルにする。食べ物の好みだって彼に合わせられる。だって修一郎さんが大好きだからだ。
「美味い」
「えへへ、ありがとうございます」
決して美味しいからと笑顔になるわけではないが、仏頂面でも毎回ちゃんと美味しいと感想を言ってくれる修一郎さんは優しい人だ。
修一郎さんは歩いている時もそうだが、食事の時の姿勢が良い。食器の音は鳴らさないし、お箸の持ち方も美しい。彼の育ちの良さが滲み出ている。