強面お巡りさんはギャルを愛しすぎている
胸の前で腕を組み考えていると姉の携帯が鳴った。
「ああ~ん、ケン君じゃない! 久しぶり♡ え!? 今から? 行く行く、すぐ行く!」
姉はペディキュアが乾いていることを確認し、立ち上がった。首元まで上がっていたオフショルをグイっと腕まで勢いよく下げた。
「それじゃ~、あんたも出かけるなら戸締りだけは忘れないでね~今日は帰らないから~」
「ちょ、ちょっと」
「バイビ~」
ひらひらと手を振り先程までの酔っ払いとは思えない軽快な足取りで出かけて行ってしまった。
「やりたいことって言われても……」
姉が飲み散らかした缶酎ハイとマニキュアを片そうとサイドテーブルに近寄ると一冊の雑誌がソファの足元に落ちていた。
ギラギラと異彩を放つ表紙からしてド派手なギャル雑誌なのがわかった。姉が読むにしては系統が違う気がする。どっちかというと姉はギャルというより清楚系ビッチだ。
そんなことを思いながらも興味本位で雑誌を捲ると、同じ人間とは思えない髪色、肌の色、奇抜なメイクに圧倒された。読めない文字の羅列に見たことも無い制服の種類と着こなし方。その雑誌に載っているのも全てが新鮮に見えた。
私立の女子校に通っていた私にとって、ギャルとは未知なる世界。
「私もギャルになれるのかな……」
雑誌には読モおすすめコスメや表紙を飾っている子のバッグの中身などが紹介されていた。最初は誰がこんな雑誌を読むんだと馬鹿にしていた部分があったが、気付けば食い入るように一読し、巻頭ページに戻り必死にメモを取った。
私も別の私になりたい。別の人になれば、この心にぽっかりと空いている穴が埋まるかもしれない。