強面お巡りさんはギャルを愛しすぎている
一、勉強するなら家に来てもいい。ただし、制服ではなく私服でくること。
二、今後、家に来るのも渋谷で遊ぶのも二十二時以降は家に帰る事。
この条件を飲むため私は鞄の中を一掃した。メイク道具や雑誌などの娯楽用品から教科書、ノートに差し替えた。
サークルの集まりも二十二時で解散するようにした。
きちんと約束を守ると小鳥遊さんは温かく私を迎え入れてくれた。冷たい強面な彼は本当はとても心優しいあたたかい人だった。
家では約束通り勉強が中心だったが、勉強が終わったら一緒にご飯を食べてちょっと世間話をする。
「ねぇねぇ、小鳥遊さんはなんでお巡りさんになったの?」
「うちは代々警察官になる習わしだ」
「習わし? それは小鳥遊さんの夢だったの?」
「夢?」
「だって親に決められた将来って夢じゃなくない? 子供の頃は何になりたかったとかないの?」
「んー、そうだな……幼い頃から警察官になるのは夢だった。別に強制されてとかじゃない。警官である父を尊敬しているし、俺は好きで警察官になった」
「ふーん、そうなんだ」
「そういう君の夢はなんだ?」
小鳥遊さんは口元を少しだけ緩めた。これは彼なりの笑顔だ。私にだけ見せてくれるこの笑顔が嬉しかった。誰にも必要とされていなかった私が、唯一彼を笑顔にしてあげられると思っていた。
「お嫁さんかな」
「…………幼稚園生でももっとまともな夢を語るぞ」
「うるっさい!」
テーブルの下で蹴りを入れようと伸ばすとすかさず足をずらし避けられた。
「逃げるなッ!」
「結婚したいなら君はまずその足グセの悪さを直しなさい」
「ふんっ! 別に小鳥遊さんとは結婚しないからいいしっ! 足グセ悪くても結婚してくれる人にするから!」
誰かのお嫁さんになればその人に必要としてもらえる。そう思って言ったのに笑われるなんて……。
小鳥遊さんとのこんな他愛の無いやりとりが楽しい。彼の雰囲気は居心地が良くて、誰も居ない家に帰るよりここに来ることで私の心は満たされていった。