弓木くんはどうやらわたしが好きらしい



笑ったあと、弓木くんはわずかに眉を寄せる。

それから何を言うかと思えば。




「これが他のヤツのために中瀬が考えたレシピってのは、気に入らないけど」

「……でも、ツナマヨが好きなのは弓木くんだよね?」




佐藤くんには、好きなおにぎりの具は聞けなかった。


代わりに弓木くんに聞いたんだ、そしたら、弓木くんがツナマヨって言ったから。


わたしの言葉にぱちぱちと瞬きした弓木くんは。




「……覚えてたんだ」

「お、覚えてるよっ、わたしそこまで記憶力悪くないよ!」




む、と頬を膨らませると。




「じゃー、このおにぎりは俺のためのものにして」

「へっ?」

「それで、俺以外のヤツに食わせんな」

「は、はあ」




たぶん、ほかの誰かにおにぎりを振る舞う機会なんて訪れないとは思うけれど……。




「この味、知ってんのは俺だけでいい」




作りすぎたかなと思ったおにぎりは、あっという間に弓木くんの胃の中へ消えていった。


気づけば、ツナマヨのおにぎりにまとわりついていたトラウマの記憶は跡形もなく消えていて。


これから先、ツナマヨのおにぎりに関連づけて真っ先に思い浮かべるのは、今目の前にいる弓木くんのことかもしれない、と思った。





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