弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


「う、うん」

「中瀬のせいで、こうなってんの」

「!」

「余裕とか、ないから1ミリも」



あの心臓の音を聞いてしまったら、もう疑えない。

じわっと頬が熱くなる。


でもわたしの目が節穴なんじゃなくて、弓木くんのポーカーフェイスがうますぎるだけだよ、なんて思いながら。


ばくばくやけにうるさい心臓の音も、今となってはどちらのものかわからない。



意識すると余計に頭のなかに鼓動が響いて……仕方なく、心拍数に合わせて羊を数えることにした。


きゅっと目を瞑って羊が柵を飛びこえる様子を必死に思い浮かべる。


1ぴき、2ひき、3びき……。


BPM120で増えていく羊はなかなかシュールだった。




「……中瀬、まだ起きてる?」



羊が200匹を超えそうになったとき、弓木くんのかすれた声が耳をかすめた。



「起きてる……よ」



弓木くんの方こそ、まだ起きてたんだ。



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