弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
途切れ途切れ、一文字ずつばらばらに分離した状態で許してもらえるはずもなく「やり直し」と言われてしまう。
今度こそ、意を決して。
きゅう、と握った手のひらに力をこめた。
「…………ちはやくん」
なんでこんなにどきどきするの。
「もう1回」
「……千隼くん」
「ふは、よくできましたー」
小学生を相手にするような口調。
だけどほっと胸をなでおろす。
これでどきどきから解放されたかと思えば────。
「これから、“弓木くん” はもう無しな」
「え……っ、これからずっと?」
「名前で呼んだ方が、恋人っぽいじゃん」
それは……そうかもしれない。
仮にも恋人同士なら、名前で呼ぶほうが自然なのかも。
だけど、これから名前を呼ぶ度にこのどきどきを味わわなきゃいけないなんて、耐えられるかな。
じたばたしたくなる衝動をこらえて、枕にぎゅーっと頭を押しつける。
すると、それをカン違いしたのか。
「眠っていいよ」
「……っ」
「────おやすみ、このか」
今、 “このか” って……!
きゅっと心臓が縮む。苦しい。
ほんとうは少しも眠くなかったけれど、睡魔が押し寄せてきたふりをして、うつぶせになって赤くなった顔を隠した。
目を閉じても瞼の裏に弓木くんが浮かんでくる。
ぐるぐると考えすぎて、疲れ果ててぷつんと意識がとぎれて。
だけど、眠りについたその先でも、弓木くんの夢を見たような気がした。