弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
あんな据え膳────がぶりと食らいつきたい衝動に襲われて、それでもぎりぎり我慢したのは、ここまでゆっくり積み重ねてきた(つもりの)ものをこんなところでぶっ壊すわけにはいかなかったから。
「……褒めてよ、俺のこと」
ぽつり、呟くと、中瀬が「んぅ……」と身じろぎした。
一瞬起こしたかと焦ったけれど、まぶたが開く気配はない。
つうか、こんな状況ですやすや寝れるとか、神経どうなってんの。
あーあ、余裕じゃん。
同じシャンプーを使ったはずなのに、やけに甘く感じる中瀬の髪のにおいとか。
髪がシーツに散らばって、あらわになったまっしろな首すじとか。
貸した襟ぐりのひろいパーカーのせいで見えてしまう、呼吸をするたび上下に動くデコルテとか。
呆れるくらいの無防備さに動揺するのは俺ばかりで。
ずるいよな、ほんとう。
でも、嫌じゃないから困る。
「……ゆみき、くん……」
「っ」
「なんて、……はにわに食べられちゃえ、このかが……代わりにはにわに、なってあげる、もん……」
唐突にふにゃふにゃした声で、わけのわからないことを口走る中瀬。
どんな寝言だよ、とくすり笑う。
「……そこは、“千隼くん” だろ、ばあか」
俺の声なんて聞こえてないはずなのに、中瀬がへらっと笑った、ように見えた。
あー……眠れる気がしない。