弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


「ごめんね……」


なんて、しおらしく謝ってくる。
まったく的外れなのに、気づかないまま。


それがかわいくて、思わず手を伸ばした。

寝癖がついた前髪をくしゃっとさらに乱す。



「謝る必要ねーよ」

「でも、千隼くん眠れなかったんでしょ……」

「別に平気。それに、俺、今機嫌いいから」

「どうして?」

「朝起きて、隣にこのかがいるんだから当然」

「……!」



ときおり口から素直に本心がすべり落ちていく。


ほとんど無意識のうちにこぼれるそれを、中瀬はたぶん冗談だと思っている。

今は別にそれでいいけどさ。


いつか本気で受けとめてくれるようになるんだろうか。




「朝ごはん食ってから帰るよな」

「え、いいの?」

「トーストでいい?」



たしか、バターとジャムもあったはず。

準備しようとベッドから降りようとすると、中瀬ももぞもぞと布団から抜け出して、それから俺の袖をきゅっと引いた。


振り向くと、中瀬が寝起きでぽやっとした顔で見つめてくる。

それから。



「えへへ。千隼くん、おはよう」

「……おはよ」



朝から心臓に悪い。
ドッドッドッと早まる鼓動。


ぴょこんと訳のわからないところからドラえ〇んのしっぽみたいに生えた寝ぐせごと、愛しいと思ってしまうから困る。


……これが日常になればいいのに、とか。




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