弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


𓐍
𓏸



「じゃあ、一旦帰るねっ。泊めてくれてありがとう」




朝ごはんを食べ終えて、すっかり乾いた制服に着替えて、中瀬はいそいそと玄関から出ていこうとする。

そりゃあ、帰るのはあたりまえのことなんだけど。




「忘れものはない?」

「さっき確認したから、たぶん大丈夫……!」



ぴょこんと跳ねた寝ぐせも、今は跡形もない。

ローファーに履き替えて、とんとんと踵をなじませる中瀬を見ていると、なんか、無性に引き止めたくなった。



「このか」

「……?」

「ベクトルの三角形の面積公式は?」

「へっ? なに、抜き打ちテストっ?!」



ええと、と真面目に考えるポーズをとる。

きょろきょろと視線をさまよわせながら。




「エスイコール、にぶんのいちルートベクトルエーの絶対値の2乗、かける、ベクトルビーの絶対値の2乗、ひく、かっこベクトルエーかけるベクトルビー、かっこ閉じるの2乗……!」



どうかな、合ってる? って上目づかい。

この無自覚たらし。


振り回されているのは、どう考えたって俺の方だ。

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