弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「じゃー、焼肉はいらないな」
「焼肉は行きたいよ!」
「割り勘ね。落ちこんでない子にはおごりませーん」
立ち直れたのは……きっと。
きっと、千隼くんのことばかり考えていたせいで。
ひょいとカツをつまんだみかちゃんは、頬杖をついて。
「話を戻すけど。弓木くんのこと、このがそれでいいなら、いいと思うよ。私が口出しする権利もないし……。ただし、このが傷つけられたら処すけどね」
「しょ、処す……?」
「私のかわいいかわいいこのを傷つけたなら、そいつは磔に処してやるわよ」
「やめてよ怖いよ」
本気の目をして言わないでほしい。
みかちゃんの美しい顔で言われると余計に迫力がある。
「でも、くれぐれも気をつけなよ?」
みかちゃんが息をひそめて言う。
「弓木くん、女の子にかなり人気あるの知ってるでしょ。なかでも “弓木ファンクラブ” はヤバいらしいよ、抜けがけ禁止協定結んでるくらいガチ勢みたいだし。目つけられたらどうなるかわかんないよ」
「いやいや、まさか、わたしなんかが」
「ウワサも出回ってるんだから、ほんと、気をつけて」
みかちゃんってば、心配性だなあ。
弓木ファンクラブの女の子たちに、こんな平々凡々女子がやっかまれるわけがないよ。
と、そう思ったタイミングで予鈴が鳴る。
昼休みが終わる5分前の合図だ。
おしゃべりに夢中になりすぎてしまった。
あわてて残りのカツ丼をかきこもうと丼を覗きこんで。
「ちょっとみかちゃん!?」
「うん?」
「わ、わたしのカツ! 全部食べちゃったの……っ?!」
「美味しかったよ」
「……!」
みかちゃん、許すまじ。