弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


“片思い” だとか “一方的” だとか。

ウワサが広まっていく度、そして千隼くんの口から直接そのワードがこぼれ落ちる度、なぜか心臓のあたりがざわざわする。



もやもやして、ちょっと苦しい。



ずっと、喉に小骨がつかえているような。

もうちょっとで答えにたどりつけそうなんだけどな、と無意識のうちにきゅっとスカートの裾を握ると。



「そこで何してんのー? 面白いものでも見えるー?」



とんとん、と肩を叩かれる。

突然、背後から。



慌てて、ぐるんっと勢いよく振り向くと、すらっと長い誰かの人さし指がぷすっと頬に突き刺さった。古典的ないたずら。



「ひゃわっ!」

「ふはは、イマドキ引っかかる子なんているんだねー。『ひゃわっ!』だって、かーわいい」



妙に艶を帯びた声が、耳に直接注ぎこまれる。
聞きなじみのない、知らない声。


気を取りなおして、頭のてっぺんからつま先まで視線でたどる。


マットブラウンの柔らかそうな髪をこなれた感じでセットしていて、優しそうなタレ目と口もとのホクロが印象的な男の子。

制服の着崩し具合がちょっとチャラい。



うーん……見たことがあるような、ないような。





< 161 / 265 >

この作品をシェア

pagetop