弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「帰ろ。日直の仕事、終わったんだろ」
「うん! あとは鍵を閉めるだけで────って、千隼くんはまだ残るんじゃないの? さっき教室で山本くんと話してたよね」
千隼くんが放課後教室に残るなんて珍しいから。
なにか用事があるんじゃないか、って思ってたんだけど。
「あー……、あれは暇つぶし」
「へ? 暇つぶし?」
「そ。俺はこのかのこと待ってただけ」
「っ!」
うう、やっぱり心臓がおかしい。
千隼くんのふいうちで、ギュインってなる。
「一緒に帰ろ」
「っ、うんっ」
するりと、さりげなく繋がった手。
手を繋ぐのははじめてじゃないのに、むしろはじめてのときよりもピリッと電流が走るような緊張感。
力加減はこれでいいのかな、とか、手汗かいてないかな、とか次から次へと気になることばかりで、まるで手が心臓になったみたいにバクバクして。
その場しのぎでいっぱいいっぱいで、帰り道にかわした会話の記憶は、家についたときにはもうどこにも残っていなかった。