弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
どうやら教科書を返してくれる気はさらさらないらしい。
ああ……このままだと、ほんとうに遅刻……。
焦りつつ、逢見くんが頭上高く掲げる教科書目がけてへなちょこジャンプを繰り返していると。
「このか」
「わっ! ……千隼くんっ?」
後ろからぐいと肩を引かれる。
振り向けば、すぐ目の前で揺れたさらさらの黒髪にドキッとした。
「そこで何してんの。授業、もう始まるけど」
「その……これは、ええと」
逢見くんに奪われた生物の教科書をちらりと見る。
と、わたしの視線を追った千隼くんが、ぱしっとすぐさまそれを奪い返した。
ええ、あっさり一瞬で。
わたしはいくら飛び跳ねても届かなかったのに。