弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「……ほんとに無理。あ゛ー……、想像しただけで、嫉妬でふつうに狂いそう」
ぽつりと呟いた千隼くんは、とん、とわたしの顔の横に手をついた。
逃げられないように、腕のなかに閉じこめるみたいに。
「────本気でもよくねえんだよ」
「え……っ?」
きょとんと瞬きをしたわたしに、千隼くんはすっと目を細める。
それから、ふいに顔を近づけて。
「俺だけのものになればいいのに」
強引に唇にふれた、柔らかいもの。
何が起きたか理解するよりも先に、息を奪われて苦しくなる。
「んん……っ、ぅ」
酸素が足りなくて頭がぼうっとする。
どれくらいの間、そうしていたのだろうか。
生理的な涙がじわっと浮かんで、限界すれすれになったとき、ちゅ、と甘い音を響かせて、それ────千隼くんの唇はそっと離れた。
混乱する頭で、ゆっくりと状況を整理して、理解する。
「……な、んで」
今のって、キス……?
千隼くんにキス、されたの?
人差し指で自分の唇にふれて、間違いなんかじゃないってわかって、じわじわと瞳に涙の膜が薄く張る。
うるんだ目で見上げれば、千隼くんははっと我に返ったように息をのんで。
「っ、ごめん、怖がらせるつもりは……」
気まずそうに視線をそらしたあと、背中を向けて。
「……一旦、頭冷やす」
苦しげな表情のまま、空き教室を出ていってしまった。