弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
クーリング・オフは恋のゆくえ


𓐍
𓏸



千隼くんがいなくなった空き教室でひとり、へなへなとへたりこむ。

床にぺたんと膝をついて、もう一度唇を指でなぞってみる。



「……っ」



キスしたんだ、千隼くんと……。

再確認すると、涙の膜がほろっと決壊した。
滴になって、ぽろぽろと頬をすべり落ちていく。




「ふ……っ、ぇ……」




嫌じゃなかった。

だって、好きなひと、なんだもん。
好きなひととキスできて、嫌な気持ちになるわけがない。




「う……ぁ」




だけど、こぼれる涙が止まらないのは。


────キスをするのは、恋人契約なんかじゃなくて、ちゃんとほんものの恋人同士になってからがよかった。気持ちが通じてからがよかったの。


だって、これじゃあ素直に喜べない。





< 236 / 265 >

この作品をシェア

pagetop