弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
ぶわっと溢れてきた涙をごまかすべく、正論モンスター、もとい弓木くんをキッと睨む。
「でもね、弓木くん、わたし、弓木くんよりは恋愛経験ほーふだから! わたしのほうが先輩なんだから! 今までたったのひとりも彼女いたことないくせに!」
これはわたしたちの学校ではけっこう有名な話だ。
弓木千隼に彼女はいない。いたこともない。
入学早々、ファンクラブが結成されるほど容姿端麗、ついでに成績優秀の弓木くんは、なぜか今まで誰ともお付き合いをしたことがないらしい。
それをいいことに、弓木ファンクラブの女の子たちは、「抜け駆け禁止協定」を結んでいるんだって。みんなの弓木くん、なのだそう。
「いつも失恋で終わってるくせに、先輩風ふかせんな」
「ぶええ、ひ、ひど……」
心のキズに塩をぬりたくってくる。
わたしには、弓木ファンクラブの女の子たちの気持ちがまったく理解できない。弓木くんなんて、いじわるなだけだもん。そりゃあ、顔は、かっこいいけれど……。
そんな弓木くんとわたしは、2年連続同じクラス。
それも、けっこうな確率でなぜかとなりの席。
弓木ファンクラブの女の子たちにやっかまれながら、わたしは、正論モンスターに正論を浴びせ続けられているのである。
そういえば。
「弓木くんって……」
「なに?」
「わたしが失恋してメソメソしてるとき、なんか、いっつも弓木くんがそばにいる気がする……」