弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
なんでだろう、フラれて教室でべしょべしょに泣いているときにかぎって、なぜか弓木くんはタイミングよく現れるのだ。
さっきだってそう。
昇降口で盛大に失恋したわたしは、帰宅する気力をうしなって、教室までよろよろ戻ってきたわけだけど、そのときには弓木くんはいなくて、教室はもぬけの殻。
よかった、と安心して机に突っ伏して号泣してたら、きゅうに扉が開いて怪訝な顔した弓木くんが戻ってきた。
すごいタイミングだ。狙ったみたい。
「まさか、弓木くんってば、わたしが失恋するタイミングを見計らって……」
おそるおそる、聞いてみる。
すると、弓木くんはポーカーフェイスのまま。
「まあ、中瀬はぐしゃぐしゃに泣いてる顔の方が見応えあるし」
「え゛」
「泣き顔は、わりとそそる」
「クズだ! クズがここにいます!」
ガタン、と音を立てて立ち上がる。
弓木くんをまっすぐに指さして、頬をふくらませると「くはっ」と抜けた笑い声が響いた。弓木くんの笑い声は、わたしをばかにしてるって感じだ。
「つうかさ、毎度思うけど、中瀬はあんな男のどこに惚れるわけ。惚れる要素あんの?」
「だってえ……、きゅんとしちゃったんだもん。弓木くんにはわからないかもだけど」