弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


「弓木くん! 今度佐藤くんの練習試合になにか差し入れしようと思うんだけど、なにがいいと思うっ?」

「……」

「ねえ弓木くんってば……! おにぎりでいいかなっ? おむすびがいいかなっ?」

「……どっちでも一緒だろ」

「弓木くんが喋った! ねえ、弓木くんはおにぎりの具はなにがいいと思う?」

「ツナマヨ」

「じゃあツナマヨにするね、えへへ、喜んでくれるかなあ」



浮かれた中瀬が、たぶん徹夜して一生懸命作ったツナマヨのおにぎりは、その佐藤とかいう奴の口には結局入らなかった。


今ならはっきり言ってやれるけれど、中瀬このかは絶望的に男運がない。

男を見る目が、マジでない。




『てかさあ、ウケるんだけど。昨日の練習試合でさ、大量におにぎりを渡してきた女がいてさあ。彼女でもないのに、食うわけないじゃん? しかも、手づくりであの量って気持ち悪くね? ま、俺優しいからさ、笑顔で受け取ってやったんだけど、すぐにゴミ箱入れたわー。あれはマジで引いた』



それを渡した中瀬本人が聞いているとも知らないで、きゃはは、と上がる笑い声。


その日、俺と中瀬はたまたま日直で、学級日誌を職員室まで提出しに行った帰り、サッカー部の倉庫の前を通りがかったときに、聞いてしまった。



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