弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「ほら、泣きやめって」
「……っ、わ!」
いてもたってもいられなくて、中瀬の涙をぐいと拭う。
ぐいぐいと拭いていると、中瀬はむっと頬を膨らませて。
「あんまりこすっちゃ、だめ! 明日、目が大変なことになってブサイクになるんだから……」
むむむ、と頬を膨らませながら俺をじっと見つめて。
「泣いた次の日、ほんとうに大変なんだよ。腫れはひかないし、クマはできるし、クマができたわたしの顔って、あれに似てるってうわさだし……」
「あれ?」
「なんだっけ、日本史に出てくる……古墳のまわりに並べるやつ……」
「……埴輪?」
別に似てないと思うけど、と思いつつ答えると、中瀬がぱっと顔を上げる。
「そうそれっ! ハニワ……!」
至近距離で目が合って、息を呑む。
知ってか知らずか、中瀬はすぐに視線をまた下におろして。
「どうせわたしは人間以下ですよお……」
なんて、的はずれなことを言いながらしょぼん、と肩を落とす。
その姿が、ちいさくて、いじらしくて。
「中瀬」
思わず手を伸ばしかけて。
「弓木くんっ」
「……なに?」
「ありがとう。弓木くんが話を聞いてくれたおかげで、ちょっと元気になりました……っ!」
ぱ、ととつぜん顔を上げた中瀬は、まだ涙がきらきら光るうるんだ目で俺をまっすぐに見上げて、ふにゃりとはにかむ。
その笑顔が、あまりにも。
「ふはっ」
「なに!? なんで笑うのっ? もしかして弓木くんもわたしのこと埴輪に似てるって思った……っ!?」
思ってねーよ、ばあか。
あまりにもまっすぐで、かわいすぎるって、思っただけ。