弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「勉強、するんだろ」
「もちろん!」
「さっさと始めんぞ。中瀬にはいくら時間あっても、足んないんだから」
「初っ端からディスるのはやめて……! モチベに悪影響だよ!?」
「事実言ってるだけ」
ふたつ、机、向かい合わせにくっつけて。
始まるのは勉強会────という名の、弓木先生によるありがたい個別指導。
結論から言うと、弓木くんはものすごーくスパルタだった。
「逆に、中瀬にはなにがわかるの?」
「えー……と」
「数字は? 読める?」
「ねえっ! 数字くらいは読めるからっ!! 小学生じゃないもん、わたし、一応これでも高校生なんだからねっ!?」
「一応な」
「うぬぬ……」
飛んでくる言葉は、辛辣。
でも、がむしゃらに厳しいわけじゃないってことは、すぐにわかった。
「中瀬は公式をすぐ当てずっぽうで片っ端から試そうとする」
「はい……」
「そうじゃなくて、いったん図を描いて考えたほうがいい。落ちついてやれば計算はできてるから。例えば、このときはどうする?」
「ええと……。等式を整理して、xだけにしてから、こっちの公式に代入する……?」
「正解。できるじゃん」
「ほんとっ? やったあ!」
ぽんと頭に弓木くんの手のひらが乗ったかと思えば、そのままくしゃ、と優しく撫でられる。