弓木くんはどうやらわたしが好きらしい
「なあ」
「は、はい?」
「中瀬、さっきから変に意識してない?」
「……っ、しし、してないっ!」
意識なんて、するもんか。
弓木くんとの距離が吐息がかかりそうなほど近いこととか、メガネ越しの瞳がなんだか色っぽく見えるとか、解説してくれるときの低く落ちついた声が心地いいとか、弓木くんの書く角ばった文字が男の子っぽくてドキッとするとか、シャーペンを持つ手が大きくて関節がごつごつしててわたしのと全然ちがう────とか。
考えてないもん、そんなこと。
あくまで、今は、勉強会だもん。
ふるふると首を横に振ると、弓木くんは少し目を細めて。
「ふーん」
「な、なに……?」
「いや。意識しまくればいいのに、って思っただけ。俺のこと、もっと」
「へ」
「中瀬の狭い頭ん中、俺のことでいっぱいにしてよ」
「〜〜っ! せ、狭くないもん、わたしの頭……!」
「ふ、噛みつくとこ、そこなんだ?」
油断も隙もない。
弓木くんとの勉強会は、心臓に悪いということに気づいてしまった。