弓木くんはどうやらわたしが好きらしい


「前のチャックも上まで閉めて」

「閉めた、けど……?」



言われるがまま。

弓木くんのぶかぶかのジャージをなぜか着せられた。


戸惑うばかりのわたしの手を、改めて弓木くんが握る。

雨で冷えきった手に、弓木くんの体温があったかい。




「一旦、俺の家行くから」

「へっ?! な、なんで?! わたし、電車乗って帰るんだけどっ」

「まだそれ言う? 中瀬、自分が今どういう格好かわかってんの」

「格好って、さっきから何を……」

「シャツ、ずぶ濡れ」




弓木くんが眉をひそめて、ちょっと不機嫌そうにわたしのシャツを指さした。

ずぶ濡れ……シャツ……と考えて、「ああっ」とやっとのことで思い当たる。




「なるほど、このまま電車に乗ったら他の人に迷惑だもんね!」

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