弓木くんはどうやらわたしが好きらしい



おにぎりを丸めるのにコツがいるっていうのは、ほんとう。


慣れていない手つきで弓木くんがつくるおにぎりは、不格好で、たまにぼろっと崩れたりして。




「なんで、中瀬はそんなに上手いの」




ちょっと悔しそうな弓木くん。




「だって、わたしは修行を積んでるんだもん。弓木くんとは格が違うよ」

「修行?」

「そう、修行────……」




何気なく話しはじめたはずなのに、言葉につまってしまう。


わたしの得意料理、ツナマヨのおにぎり。

得意料理になったわけを思い出すと、胸がきゅっと苦しくなる。


今ではもうふっきれたはずなのに、やっぱり、切ない記憶というのはなかなか消えてくれないもので……。



不自然に言葉につまるわたしに、弓木くんは相変わらず不格好なおにぎりを握りながら 「ああ」 とふいに合点がいったように。




「佐藤か」

「……うん。よく覚えてるね」




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