マドレーヌは甘すぎず
七瀬さんは美しい。容姿だけの話をしているわけではない。
都市で上位を誇るお嬢様学校のひとつ、東海高等学園の落ちこぼれである私にもほかと変わらぬ接し方をしてくれる。今日もこうして七瀬さんに手作りのお菓子を食べていただきながら、2人でお話をする。私と七瀬さんの2人だけの時間。

「今日はマドレーヌを焼いてみたんです。」

「まるで売り物のようね。いただきます。」

七瀬さんはマドレーヌを見つめ、静かに3分の1ほどかじる。口元を隠しながらゆっくり噛み、やがて音もなく飲み込む。口元はまだ隠しながら、その大きな目を細める。

「とても美味しいわ。私だけがいただくのはもったいないくらいね。」

「いいえ、いいえ、これは七瀬さんのために作ってきたものですわ。七瀬さんの好みに合わせて、材料の分量も少しずつ変えましたの、七瀬さんは甘いものが苦手で酸味のあるものがお好きでしょう?
ですから、砂糖は減らして、それで、酸味を加えるために…」

「まあ、私の事、よくご存知なのね。」

「もちろんですわ!」

「嬉しい。」

ええ、ええ、当たり前ですわ!七瀬さんのことですもの!七瀬さんのためなら、なんだっていたしますわ。七瀬さんのことなら他よりも、きっと、七瀬さんのご両親よりも存じておりますわよ。
入学してからずっと、ずっとそばにいたのは私ですわ。私の作るお菓子を召し上がっていただきながら、七瀬さんのお話を沢山聞かせていただきましたのよ。
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