淋れた魔法
「失恋?贅沢言ってんじゃねーよ。おまえ、一度でもあいつに好きになってもらおうってがんばったことあるのかよ」
好きなんだから、きれいに見えるのは、しょうがないだろ。
特別に見えるのは、何もおかしいことじゃないだろ。
青木ゆりだけがおれにとっては唯一、なんの曇りも翳りもなく見える存在だったんだ。
「あいつと向き合ってみたくて吐いた嘘なんじゃねえの?」
「……」
ムカつく。
その嘘のせいでゆり先輩とは話せなくなるし、ゆり先輩とだけじゃなくて他のやつらとも話せなくなるし、なんなんだよ。
「せっかく吐いたんなら、それ、もっとちゃんと利用してみれば」
ゆり先輩曰く、中途半端なおれが吐いた、本当にしょうもない嘘。
後先考えず口に出して、けっきょくバラして、好きなひとのことを泣かせて散々な目にあった。
そういえばあの涙はなんだったんだろう。
けっきょくゆり先輩の気持ちはひとつも質問することができないまま、高校2年に進級した。
ねえゆり先輩。
ちゃんと見ていてくれたのに、ちゃんと見れなくて、ごめん。
だけど誰がなんと言おうと
苛立ちの原因であるアイツに言われたとおりなのは癪だけど
ゆり先輩がおれの初恋だった。