戀を手向ける
────「傍にいていいの?」
────「今まで散々ひっついてきたくせに今更それ聞くのかよ」
────「…わたしがもう死んでても同じこと言える?」
────「……言えるよ」
────「じゃあもういっかい言って」
────「いくなよ」
はっと目を開けると、ひどく汗をかいていた。
あいつの夢を見たような、見ていないような、とりあえず胸糞悪い気分を吐き出すように息を吸う。
葬式後の朝だししょうがなくね、と誰にするでもないのにダサい言い訳を頭のなかでつぶやいて布団から出る。
水が飲みたい。…学校はいいか。行く気分にならない。あきらめにも似た気持ちで部屋のドアノブに手をかけると「だめだよ、学校は行かなくちゃ」と聴きなれたぽてっとした声が後ろから届いた。
「…は?」
おそるおそる振り向くと、さっきまで俺が寝ていたはずのベッドに、死んで昨日焼かれたはずの藤宮守寿が座っていた。確かにいる。
「気分じゃねーから学校いいやって今思ったでしょ?どんな気分でもお休みじゃない限り行かなくちゃだめだよってずっと言い続けてたでしょ、わたし。直矢くんだってがんばってくれてたでしょ」
でしょでしょって、追い詰めてくるみたいな口癖。最初はすげー嫌いだった。
「……なんでいんの、おまえ」
「直矢くんのお部屋好きなんだもん」
「そうじゃなくて。なんで生きてんの?」
やばい。声震える。
葬式に出た。なぜか湯かんの儀とやらにも呼ばれて冷たくなったこいつの身体拭くのに付き合わされて、死に化粧が施されていくのを眺めて納棺まで見届けた。なに、あれって夢だった?