戀を手向ける


そういうわりに強引な手のひらが頬を包んでくる。

ぐっと向かされ視界に映った藤宮守寿のことを引き寄せると、もっと強いちからで彼女の腕が背中にまわった。


名前を呼んでくる、こもった声。


嫌いだなって思うところもあるのに、それはたぶん本気じゃなくて。

いや、確かに嫌いなんだけど、それも含めて、それ以上の気持ちが俺にはあって。

魔術なんかじゃないこともわかっていた。


すげー嫌い、より、すげー好きだな。


できれば二度とひとりきりの無機質な部屋にいてほしくない。似合わない。傍にいたい。

そっと距離をつくると、揺れる瞳がこっちをとらえた。


なに、その、不安そうな顔。

なんで今、そんな顔すんの?ぜんぜんわかんねえよ。



「直矢くん」


くちびるを寄せようとした俺の鎖骨あたりをそっと、だけど確実に押し返してくる。


「…なに」

「あのね、ふたつめのお願い」

「……なに」


本当は聞きたくなかった。

聞いたらどうせ、言うことをきいてしまう。敵いっこない。

だけどもっと、本能的に聞きたくないと強く思った。


「わたし……未練をね、残したくないの」


いつもの自信満々な口調ではなく、言いにくそうに、だけど訴えるように彼女は言った。


「直矢くんに、手伝ってほしい」


聞かなきゃよかった。

ろくでもない、可愛げもない、藤宮守寿の最大級の願いごと。


ふたつしかねえのかよって、何かを恨みたいような気持ちになった。







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