戀を手向ける


「直矢くんのお父さんとお母さん、今日もふたりでディナーなの?」

「うん。あいつらだけ贅沢すぎない?」

「ぶふふ。でもお姉さんがごはん作ってくれるんでしょ」

「別れて暇なんだって」

「え!残念だね……」


おまえがしょんぼりするのかよ。変なやつだな。


「着替えるからどっか行ってくんね?」

「ぶふふ、うしろ向いててあげるね」


こいつはだいたい上から目線。すげー嫌い。なんか視線感じるし。無視しよ。気づかないふり。それが勝ち。

幽霊って一時的に透明になったりできんのかな。できたら質悪いし絶対何か企むだろうから聞かないけど。



「直矢くんって細いのにがっちりしてるよねえ」


いや、しゃべんなよ。気づかないふりが台無し。


「後ろ向いててくれるんじゃなかったっけ」

「直矢くんが後ろ向いてるならわたしはべつにいいかなって思って」


その理屈、まじで意味不明。いつだって自分中心。自分が正解。自己中ってやつだ。

うざすぎ。気にしたくねえ。気にすんな、と言い聞かせながら下も着替える。どうでもいい。あいつの視線とか気にしないし。着替えとかべつに見ればいいし。だいたいこいつは今は幽霊。


藤宮守寿は死んだ。死んで、葬儀までの間に腐らないように冷凍庫みたいなところに入れられてて、夏が好きなのになって思って、棺に、季節外れのマフラーと手袋を入れてやった。

それならふつうそれつけて化けてくるだろ。

そういえば気にしてなかったけど青のワンピース姿。一番お気に入りの服なんだって自慢されたけど、正直言って暖色のほうが似合うと思う。

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