戀を手向ける
案の定旅行は却下。
「おまえさあ、うそっぽいこと言うなよ。アレがなかったら絶対いけた」
「そうかなあ。うそっぽいかなあ」
うそっぽいだろ。北海道に一緒に行こうとしてる異性のこと、聞かれてもないのにわざわざ「彼氏じゃないよ!」「付き合ってはないの!」「お友達なの!」「だから安心して!」って……バカなの?せめて聞かれてから言えよ。つーか俺の前で言うなよ。前もって言っとけよ。
どうやら付き合ってないらしい。初めて知った。
うそっぽい本当の台詞。あの時キスしようとした自分を呪いたい。
本当、最悪なやつだよな。
でも、気持ちは、真意は、なんとなくわかるから責めらんねえよ。
ただ少し、本当に少しだけ、ふてくされるのは許してほしい。そう思っていたら、藤宮守寿は「ごめんね」と小さくつぶやいた。
初めての言葉に、おどろいてしまった。
見下ろすとくちびるをきゅっと結んで笑顔をつくっていて、たまらなくなってその頬をつねる。
「似合わねえこと言ってんじゃねえよ」
何に対してのごめん、だよ。
答えがこわくて聞けなかった。
それから彼女は未練になりそうなことを叶えるごとに「ごめん」とつぶやくようになった。
意識して、というよりは、何も考えずに出てくる言葉がそれ、みたいな声で言うからどうしたらいいのか。
彼女が言うことは、俺にとって正解そのものだった。
だから、ごめんなんて言われると、これが正解なのかわからなくなった。