戀を手向ける
出かけて、疲れさせて。
多くなった風邪や貧血は、そのせいなんじゃないかと思って。
楽しいって思ってもらえていないならやめるべきなんじゃないか。無理をさせているんじゃないか。俺ばっかりでいいのか。もっと一緒にいたいやつはいるんじゃないのか。
──── そんなとき、北海道旅行の許可がおりた。
その代わり藤宮家も同行、もちろん部屋は別、という条件付き。行く前にはいつもの定期検査よりも長い検査を受けた。
飛行機で久しぶりに笑顔を見た。
北海道について大雪が降っている光景に、彼女ははしゃいでいた。
「直矢くん、行こう!」
無邪気に手を掴んでくる。
うそっぽい本当の台詞は、やっぱりうそだと思いたい。
寒い外での観光。あたたかい室内で食べる鍋。その旅行で「ごめん」は一度も聞かなかった。
このまま帰りたくないな、と、何回思ったかわからない。
北海道から帰ってすぐに彼女は体調を崩して入院した。やっぱり行かないほうがよかったんじゃないかと、とても口にはできないことを思ってしまった。
「退院したら海に行きたいな」
それが最後の未練のような、そんな気がしたから、俺は最後まで付き合うことに決めた。
なんとか回復し退院できて、俺たちはすぐに海に行った。なんとなく、すぐに行かなくちゃいけない気がしていた。
地元から一番近い、綺麗でもなんでもない海。
藤宮守寿が好きな青色もしていないのに、満足そうな笑顔を浮かべる。
ちょっと痩せた。