戀を手向ける


出かけて、疲れさせて。

多くなった風邪や貧血は、そのせいなんじゃないかと思って。


楽しいって思ってもらえていないならやめるべきなんじゃないか。無理をさせているんじゃないか。俺ばっかりでいいのか。もっと一緒にいたいやつはいるんじゃないのか。



──── そんなとき、北海道旅行の許可がおりた。

その代わり藤宮家も同行、もちろん部屋は別、という条件付き。行く前にはいつもの定期検査よりも長い検査を受けた。


飛行機で久しぶりに笑顔を見た。

北海道について大雪が降っている光景に、彼女ははしゃいでいた。


「直矢くん、行こう!」


無邪気に手を掴んでくる。

うそっぽい本当の台詞は、やっぱりうそだと思いたい。


寒い外での観光。あたたかい室内で食べる鍋。その旅行で「ごめん」は一度も聞かなかった。

このまま帰りたくないな、と、何回思ったかわからない。


北海道から帰ってすぐに彼女は体調を崩して入院した。やっぱり行かないほうがよかったんじゃないかと、とても口にはできないことを思ってしまった。


「退院したら海に行きたいな」


それが最後の未練のような、そんな気がしたから、俺は最後まで付き合うことに決めた。

なんとか回復し退院できて、俺たちはすぐに海に行った。なんとなく、すぐに行かなくちゃいけない気がしていた。


地元から一番近い、綺麗でもなんでもない海。

藤宮守寿が好きな青色もしていないのに、満足そうな笑顔を浮かべる。

ちょっと痩せた。

< 25 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop