戀を手向ける


「直矢くん、最近、わたしのことでたくさん悩ませてたでしょ」

「…悩んでねえよ」

「ひとりで悩ませて、ごめんね。…思ってること聞かせてほしい」


また謝った。
そんなつもりじゃねえのに。

俺が勝手に、ふてくされていただけだった。


「…俺でよかったの?」

「え……」

「一緒にいるの、俺でよかった?」


きょとんとした顔。なにそれ。

しばらく考え込む素振りをしたあと、彼女はぶふふ、と盛大に笑った。


「なんだ、そんなことだったんだあ」

「そんなことってな…」


言わなきゃよかった。自分のことをこいつに話すとだいたいそう思うから嫌なんだよ。

苛々するのもばからしくなってくる。
そんな思いでいると、ふいに手が重なった。



「直矢くん…ずるいこと、言ってもいい?」


いつも言ってんだろ。


「直矢くんと一緒にいたいから、きみに話しかけたんだよ。きっとわたしの特別なひとになる気がしてしつこくしたら、本当にそうなったの。センサーすごいでしょ」


しつこい自覚あったのかよ。

ずるいこと言っていいって返事もしてないのに。


だけどいたずらが成功したみたいな顔で笑うから、敵わない。

仕返しのように指を絡めたけど、ぶふふ、という声が聴こえて、やらなきゃよかったと後悔した。

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