戀を手向ける


葬儀が終わって初めての休日に入る夜、藤宮守寿の家族から連絡がきた。

そのことはなんとなく彼女に伝えられないまま次の日支度をする。

「なんで制服?」「どこに行くの?」「今日はなにするの?」「直矢くんはもうちょっと趣味をつくったりしたほうがいいよ!」とおせっかいなことを口煩く言ってくる。こいつ、本当にこのままずっと傍にいたらどうしよう。


俺は、どうするべきなんだろう。

何が正解なのか。どうしたら正解なのか。目印にしていた彼女はもういない。


藤宮家に着くと、本人は戸惑った表情を浮かべた。


「お線香あげてくれるの?」

「まあ、たぶん」

「傍にいるんだからしなくていいでしょ。わたし、ここにいるでしょ。お墓にもこの家にもいないでしょ」


うるせえな。まじでうるせえ。いつになくうるせえ。

きっと、家族の顔を見るのが、嫌なんだと思う。いやいや言い出すと思ったからここにくることを言わなかった。


「直矢くん、いらっしゃい」


こいつに似ておっとりした声。丸顔。


「こん、ちは」

「直矢くん!こ・ん・に・ち・はって言わなきゃだめでしょ」

「…こんにちは」


だめだ、本当に黙ってほしい。気が散る。

母親に持たされたどら焼きを渡す。「胡麻饅頭がよかったあ」と隣から文句を言われたけど、さすがにコンビニで買ったやつ渡せねえだろ。バカすぎて無理。


遺影は、北海道での写真。
よく笑っていて正直すげー良いやつ。

そこに向かって線香をあげて手を合わせてる間も幽霊は散々話しかけてきた。黙るってことができないらしい。

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